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相続で家や不動産を売却するには?税金と注意点を解説

2025.09.16
お役立ち情報
相続
相続で家や不動産を売却するには?税金と注意点を解説

家族を亡くし、相続した不動産をどうすればよいか悩み、途方に暮れていませんか?
「売却したいけれど、何から始めれば良いのかわからない」という不安をお持ちの方も
いらっしゃるかもしれません。
相続した不動産の売却は、通常とは異なる複雑な手続きが求められるため、
適切な順序で進めることが何よりも大切です。

この記事では、相続した不動産(居住用を含む)の売却を検討している方に向けて、
手続きの基本から必要書類、税金の知識、専門家選びのコツまで解説します。

相続で不動産を売却する前に知っておきたい手続きの基本

亡くなった方から不動産を相続しても、その時点ですぐに売却できるわけではありません。
遺産相続をするにあたって、
まず、不動産の所有者をあなた(相続人)の名義に変更する「相続登記」が必要です。
関連するこれらの手続きを終えてから、ようやく売却に取りかかれるのです。
この基本的な流れを最初に理解しておくことが、スムーズな手続の第一歩となります。

相続発生から売却完了までの全体の流れ

相続不動産の売却は、大きく分けて「相続の手続き」「売却の手続き」2段階で進みます。
具体的な流れを順番に見ていきましょう。

1.相続の手続き

  1. 相続人の確定
    亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本を取得し、
    法的な相続人を明確にします。
  2. 遺産分割協議
    相続人が複数いる場合は、誰が不動産を相続するか、
    あるいは売却して代金を分ける「換価分割」にするかなどを話し合いで決めます。
  3. 相続登記
    遺産分割の内容が確定したら、法務局で不動産の名義を相続人へ変更する登記申請を行います。
    通常1~2週間程度かかりますが、書類に不備があるとさらに時間がかかることもあります。
    登記が完了し、新しい権利証(登記識別情報通知書)を受け取ったら、売却準備へと進みます。

2.売却の手続き

  1. 不動産の査定
    複数の不動産会社に査定を依頼し、適切な売却価格を把握します。
  2. 媒介契約の締結
    信頼できる不動産会社を選び、売却を依頼する契約を結びます。
  3. 売却活動
    不動産会社が買主を見つけるための活動を行います。一般的に3~6か月程度かかります。
    「いつ売却できるのか」「どんな条件で売っていけるのか」が重要な検討ポイントになります。
  4. 売買契約の締結
    買主が見つかり、条件に合意したら売買契約を結びます。
  5. 決済・引渡し
    通常、売買契約締結の約1か月後に売却代金の決済と不動産の引渡しが行われます。

上記の相続発生から売却完了までの手続きは、早くても6か月程度、場合によっては1年以上かかることもあり、余裕を持ったスケジュールで進めることが大切です。

相続登記に必要な書類と手続きの手順

相続不動産の売却で特に大切なポイントは、「名義変更(相続登記)」と「必要書類の準備」です。
亡くなった方の名義のままでは不動産を売却できませんので、必ず相続登記を完了させてください。
また、相続に関する手続きには期限が設けられているものもあります。
たとえば、相続税の申告は相続開始から10か月以内
そして相続登記は2024年4月から義務化され、相続開始から3年以内に税務署で行う必要があります。

相続登記と売却手続きには、様々な書類が必要です。
漏れなく準備できるよう、チェックリスト形式でご紹介します。
記載事項は、十分に確認してください。

相続登記に必要な書類チェックリスト

【相続関係を証明する書類】

  • 亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
    本籍地の市区町村で取得します。転籍している場合は複数の自治体で請求します。
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 相続人全員の住民票
  • 遺産分割協議書
    相続人が複数いる場合に必要です。相続人全員が署名・実印を押印しましょう。
  • 各相続人の印鑑証明書
    発行から3か月以内のものを用意してください。
  • 遺言書
    公正証書遺言であればそのまま使用できます。
    自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認手続きが別途必要です。

【不動産を特定する書類】

  • 固定資産評価証明書 または 固定資産税納税通知書
    不動産の所在地、地番、家屋番号、評価額などを確認できる大切な書類です。

【手続きの方法】
必要書類を揃えたら、管轄の法務局に提出します。
申請方法は窓口への持参、郵送、オンライン申請の3つがありますが、
初めての場合は窓口で相談することをおすすめします。
登録免許税として固定資産税評価額の0.4%を納付する必要があります。
例えば、評価額2,000万円の不動産であれば8万円の税金がかかる計算です。

売却に必要な書類

相続登記が完了し、いよいよ売却の準備です。
ここでは、売却時に必要となる書類について見ていきましょう。

【売却時に必要な書類チェックリスト】

  • 権利証(登記識別情報通知書)
    相続登記完了後に交付される、所有権を証明する最も重要な書類です。
    紛失してしまっても、「本人確認情報」の作成によって売却は可能です。
    ただし、司法書士への依頼が必要となり、
    5~10万円を目安に手続きに係る追加費用が発生することがあります。
  • 本人確認書類
    運転免許証やマイナンバーカードなど、顔写真付きの身分証明書をご準備ください。
  • 印鑑証明書と実印
    発行から3か月以内の印鑑証明書と実印が必要です。売買契約書や各種書類への押印に使用します。
  • 住民票
    売買契約時に必要となることが多いので、
    こちらも発行から3か月以内のものを用意しておくと安心です。

【不動産の詳細を示す書類】

  • 固定資産税納税通知書
  • 固定資産評価証明書
  • 建物の図面(間取り図)
  • 土地の測量図

マンションの場合

  • 管理規約
  • 総会議事録
  • 長期修繕計画書

これらは買主にとって重要な判断材料となります。

戸建ての場合

  • 建築確認済証
  • 検査済証

これらの書類があると、買主が住宅ローンを利用しやすくなり、安心感にもつながるでしょう。

相続特有の書類
  • 相続税申告書の控えや相続税の計算明細書
    買主が相続税の取得費加算特例を検討する際に役立つことがあります。
  • 亡くなった方がリフォーム工事を行っていた場合の領収書や契約書
    これらは売却時の取得費として計上できる可能性があります。
    税金計算において重要な役割を果たしますので、大切に保管しておきましょう。

相続不動産の売却には税金上のメリットもあり、税金に関する特例なども関わってきます。
その理由として、相続開始から3年10か月以内に売却した場合、支払った相続税の一部を
売却による利益(譲渡所得)から控除できる
「相続税の取得費加算の特例」が適用される可能性があるからです。
国税庁の定めるこの特例を上手に活用するには、
条件を満たした上で適切な書類の準備と手続きが求められますので、
少しでも不安を感じたら、弁護士や司法書士、税理士といった専門家に相談してください。

相続で不動産を売却する3つのメリット

相続した不動産をどうするか、誰しも悩むものでしょう。
特に、相続人が複数いたり、誰も住む予定のない実家を相続したりした場合、
「売却」という選択肢は非常に有効です。
ここでは、相続不動産を売却することで得られる、具体的な3つのメリットを詳しく見ていきましょう。

1.相続人の間で公平に財産を分配できる

不動産をそのまま相続すると、相続人同士の間で「不公平だ」という感情が生まれてしまいがちです。
例えば、3人兄弟で実家を相続する場合、長男が家を継ぐ慣習があったとしても、
他の兄弟からすれば「自分には何ももらえない」と不満が残るかもしれません。

不動産を売却して現金化すれば、この問題はすっきりと解決します。
もし実家が3,000万円で売れるなら、3人で1,000万円ずつ分けることができますから、
誰もが納得できる形で公平に分配することが可能になるでしょう。
現金は不動産のように物理的な分割が難しいものではありませんので、
相続人全員が平等に財産を受け取れるというわけです。

また、現金化することで、各相続人はご自身の生活に合わせて資産を自由に活用することができます。
住宅ローンの返済に充てる方、お子様の教育資金に回す方など、使い道は多様です。
不動産のまま持ち続けても使い道が限られますが、現金なら選択肢が大幅に広がるでしょう。

相続争いの多くは「不公平感」と「意見の違い」が原因で発生します。
売却による現金化は、この根本的な原因を取り除く最も確実な方法と言えます。

2.維持費と管理の負担から解放される

不動産を所有し続ける限り、さまざまな維持費がかかり続けます。
固定資産税が毎年必ず発生するだけでなく、火災保険料も必要不可欠です。
築年数が古い家であれば、雨漏りや外壁の補修をはじめ
状態によっては耐震基準を満たすために
予期せぬ大きな出費が発生することも少なくありません。

特に誰も住んでいない空き家の場合、管理の負担は想像以上に重いものです。
月に1回は様子を見に行き、庭の草取りや室内の換気を行う必要があるでしょう。
もし遠方に住んでいるなら、この作業のために丸一日を費やすこともあります。
管理を怠れば近隣から苦情が寄せられたり、
最悪の場合「特定空き家」に指定されて行政指導を受けたりするリスクも伴います。

売却すれば、これらの経済的・精神的な負担から完全に解放されます。
固定資産税の支払い通知に悩むことも、台風の後に屋根や道路の点検をする心配もありません。
大きな重荷が取り除かれることになります。

さらに、管理の責任を巡って相続人間でトラブルが発生することもないでしょう。
「誰が管理費用を負担するのか」「誰が草むしりに行くのか」といった
面倒な問題に悩まされることなく、スッキリと相続手続きを完了させることができます。

3.将来のリスクを事前に回避できる

不動産を長期的に保有することには、この先も多くのリスクが伴います。
最も大きなリスクは価格の下落です。
日本の人口減少と高齢化は今後も進むと予測されており、
特に地方の不動産価格は下がり続ける可能性が高いと言われています。
今は3,000万円の価値があっても、10年後には2,000万円になっている、
ということもあり得るかもしれません。

建物の老朽化も深刻な問題です。
築30年を超えると大規模修繕が必要になることもあり、
数百万円もの費用がかかるのは珍しいことではありません。
しかし、お金をかけて修繕しても、必ずしも資産価値が維持できるとは限りません。
むしろ、修繕費の方が高くついてしまう例も多いでしょう。

法制度の変更によるリスクも見逃せないポイントです。
空き家対策特別措置法の施行により、
管理が不十分な空き家には重いペナルティが課されるようになりました。
将来的には、さらに厳しい規制が導入される可能性も十分に考えられます。

売却のタイミングも重要です。
相続直後は相続税の軽減措置や特例が適用される場合がありますが、
時間が経過するとこれらの恩恵を受けられなくなる可能性も出てきます。
早めに売却することで、税制上の優遇措置を最大限に活用できるというメリットもあります。

不動産の売却で失敗しないための重要なポイント

相続した不動産の売却は、通常の不動産売買とは異なる特殊な手続きや注意点があります。
事前の準備を怠ると、売却がスムーズに進まなかったり、
予期せぬトラブルに巻き込まれたりするかもしれません。
ここでは、安心して売却を進めるための重要なポイントを詳しく見ていきましょう。

売却前に必ず完了させておくべき手続き

相続における不動産の売却では、所有権を明確にする手続きが非常に重要です。
まず、相続登記が完了していることを確認しましょう。
令和6年4月から相続登記が義務化され、
相続開始から3年以内に登記しなければ10万円以下の過料が科される可能性があります。
「相続登記に必要な書類と手続き方法」の章で詳しく解説していますので、
そちらを参考にしてください。)

また、固定資産税の納税状況も確認が必要です。
未納がある場合、売却代金から差し引かれることになるため、注意しましょう。
さらに、建物がある場合は建築確認済証や検査済証の有無も大切なポイントです。
これらの書類がないと、買主が住宅ローンを利用できない可能性があり、
売却価格に影響が出ることが考えられます。

そして、境界確定測量も忘れてはならない手続きの一つです。
自宅の敷地が隣接地との境界が不明確な場合、後々のトラブルの原因となることがあります。
測量や調査には2~3ヶ月程度かかることも珍しくありません。
売却を決めたら早めに土地家屋調査士に相談することをおすすめします。

遺産分割協議でトラブルを避ける

相続人が複数いる場合、遺産分割協議は避けて通れない非常に重要なものです。
不動産の売却方針について、相続人全員の合意を得る必要があります。
たった一人でも反対する人がいれば、売却は進められませんから、
慎重に進めることが求められます。

トラブルを避けるためには、まず相続人全員で不動産の現状を共有することから始めましょう。
築年数、立地条件、修繕の必要性、固定資産税の負担額など、
客観的な情報を整理して提示することで、感情的な対立を避けやすくなります。

売却代金の分配方法についても、あらかじめ事前に明確に決めておくことが大切です。
法定相続分通りに分けるのか、それとも別の相続財産も考慮して調整するのか、
あるいは「相続放棄」といった選択をするのか、
曖昧なままにしておくと後でもめる原因になりかねません。
例えば、長男が実家を相続する代わりに、
他の兄弟には現金を多く分けるといった「代償分割」も選択肢の一つです。

また、売却にかかる費用の負担についても協議が必要です。
仲介手数料、登記費用、測量費用、解体費用などは決して安価ではありません。
これらの費用を誰が負担するのか、売却代金から差し引くのかを明確にしておくことで、
後々のトラブルを未然に防げるでしょう。

売却時期によるリスクと注意点

不動産の売却時期は、価格に大きな影響を与えることがあります。
そのため、慎重な判断が求められるポイントです。
一般的に春先から初夏にかけては不動産需要が高まりやすい時期と言われますが、
相続した不動産の場合は税務上の特例も考慮する必要があります。

相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月以内ですが、
この期間内に売却が完了しない場合、「小規模宅地等の特例」を適用できない可能性があります。
この特例は相続税を大幅に軽減できる制度ですので、
適用できないと税負担が大きく増えてしまうでしょう。

一方で、相続開始から3年10か月以内に売却すれば
「相続税の取得費加算の特例」を利用できることがあります。
この特例により、相続税の一部を不動産の取得費に加算でき、
売却による利益(譲渡所得)にかかる税金を軽減できる可能性があります。
ただし、この特例には細かい適用要件がありますので、
税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

急いで売却する場合のリスクも理解しておいてください。
市場価格より安く売却してしまったり、
資金調達が不安定な買主と契約してしまったりする可能性があります。
特に相続の開始直後は精神的に不安定になりがちです。
冷静な判断ができるよう、信頼できる専門家のサポートを受けることが大切になるでしょう。

信頼できる専門家・不動産業者の選び方

相続した不動産の売却は専門性が高いため、
信頼できる専門家や不動産業者を選ぶことが成功の鍵となります。

まず不動産業者を選ぶときには、相続に関連する不動産の取扱実績が豊富な業者を選びましょう。
一般的な不動産売買とは違い、相続の手続きや注意点を熟知している業者であれば、
スムーズに進めることができるはずです。
複数の業者から査定を取ることも重要ですが、
単に高い査定額を提示した業者を選ぶのは避けてください。
査定根拠を明確に説明でき、類似物件の成約事例を具体的に示してくれる業者を選ぶべきです。
また、売却の具体的な方法や期間、
仲介するにあたっての手数料についても詳しく説明してくれる業者を探しましょう。

弁護士や司法書士、税理士などの専門家を選ぶ時も、慎重に選びましょう。
相続登記や税務申告は専門性が高く、
経験豊富な専門家に依頼することで安心して手続きを進められます。
報酬体系が明確で、事前に総額の見積もりを提示してくれる専門家を選ぶことをおすすめします。

不動産の分割方法と名義変更のポイント

相続した不動産をどう分けるか、
この決断は、相続人同士の関係性や今後のライフプランに大きく影響します。
一度決めて、手続きが済むと、それ以降に分割方法は簡単には変えられませんから、
それぞれの方法のメリット・デメリットをしっかり理解した上で、慎重に選択することが大切です。

4つの遺産分割方法とそれぞれの特徴

不動産の遺産分割には、主に4つの方法があります。
どの方法を選ぶかによって、相続後の管理や処分の自由度が大きく変わってきますので、
ご自身の状況に合わせて最適な方法を見つけましょう。






遺産分割方法
概要メリットデメリット向いているケース
現物分割不動産をそのまま特定の相続人が単独で相続する。相続後の管理・処分が簡単。単独所有で自由に判断できる。不動産価値が他の相続財産と釣り合わない場合、不平等が生じやすい。相続財産が複数あり、それぞれの相続人が希望する財産がある場合。公平性が保ちやすい場合。
代償分割特定の相続人が不動産を相続し、他の相続人へ金銭(代償金)を支払う。不動産を残したい人の希望が叶う。他の相続人も公平に相続分を受け取れる。代償金を支払う相続人に十分な資力が必要。不動産評価額について全員の合意が必要。不動産を特定の相続人が引き継ぎたいが、他の相続人との公平性を保ちたい場合。
換価分割不動産を売却して現金化し、その代金を相続人で分ける。最も公平で分かりやすい方法。相続争いを避けやすい。思い出の家を手放すことになる。売却市場の状況によっては希望価格で売れない可能性も。相続人全員が不動産を必要とせず、現金で公平に分けたい場合。相続財産が不動産のみの場合。
共有分割複数の相続人が不動産を共同で所有する。当面の解決策として選択しやすい。将来的な売却や管理で共有者全員の同意が必要になり、トラブルの可能性が高い。暫定的な措置として一時的に選択する場合。ただし、後々のトラブル回避のため専門家への相談が必須。

それぞれの方法には一長一短があり、
相続人の状況や不動産の特性、将来の計画などを総合的に考慮して選択することが重要です。
特に、相続人間の関係性や経済状況、
不動産への思い入れなども大きく影響しますので、十分な話し合いを重ねることが欠かせません。

共有名義で相続した場合の売却時の注意点

共有名義での相続は、一見すると公平で問題ないように思えるかもしれません。
しかし、実際に売却を検討する段階になると、
さまざまな制約や複雑さが浮き彫りになることが多いものです。

共有不動産を売却する際の最大の制約は、共有者全員の同意が必要になる点です。
例えば、兄弟3人で3分の1ずつ共有している実家を売却したい場合、
3人全員が売却に賛成しなければ売ることはできません。
たった1人でも反対すれば売却は成立しないため、
共有者の中に「絶対に売りたくない」という人がいると、事実上売却は不可能になってしまいます。

また、時間の経過とともに状況はさらに複雑化します。
共有者の一人が亡くなった場合、その持分は配偶者や子どもに相続されるため、
関係者がどんどん増えていくでしょう。
最初は兄弟3人の共有だったものが、
数年後には配偶者や甥・姪も含めた10人以上の共有になることも珍しくありません。
関係者が増えるほど、全員の合意を得ることは非常に困難になります。

売却価格についても、共有者間で意見が分かれることはよくあることです。
「少しでも高く売りたい」という人もいれば、
「早く現金化したいから多少安くても構わない」という人もいるでしょう。
売主として不動産会社選びや売出し時期についても、
それぞれ異なる考えを持っていることが多く、調整に時間がかかることがあります。

さらに、共有不動産の管理費用の負担も問題になりがちです。
固定資産税や修繕費、火災保険料などの維持費用は、
本来であれば持分割合に応じて負担すべきですが、
実際には特定の共有者だけが負担しているケースも多く見られます。
このような費用負担の不平等が、売却時の条件交渉を複雑にすることもあるでしょう。

共有名義で相続した不動産の売却を考えているなら、
相場を知るためにも早めに専門家に相談することをおすすめします。

相続不動産売却時の税務上の注意点

亡くなった方から家を相続したものの、
住む予定がないため売却を検討している方も多いのではないでしょうか。
しかし、相続した不動産の売却には複雑な税務処理が絡むため、
事前に理解しておくべきポイントがあります。

売却時に発生する税金の種類

相続不動産を売却した場合、
主に「譲渡所得税(売却による利益への税金)」と「住民税」が課税されます。
これらの税金は、
売却価格から取得費(不動産の購入費用など)と譲渡費用(売却にかかった費用)を差し引いた、
売却による利益(譲渡所得)に対して課されるものです。

譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間によって大きく異なります。
相続の場合は、亡くなった方(被相続人)がその不動産を取得した時期から計算しますので、
多くの場合「長期譲渡所得」(所有期間5年超)に該当します。
その場合の税率は、所得税15%、住民税5%の合計20%となります。
もし「短期譲渡所得」(所有期間5年以下)に該当すると、
所得税30%、住民税9%の合計39%と大幅に高くなるので注意が必要です。

さらに、2013年から2037年までは、復興特別所得税として所得税額の2.1%が追加で課税されます。
つまり、長期譲渡所得の場合は実質20.315%、
短期譲渡所得の場合は39.63%の税率となることを覚えておきましょう。

ただし、相続不動産には特別な優遇制度が設けられています。

【相続した空き家の3,000万円特別控除の適用条件】

一定の条件を満たす相続不動産を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。
この特例を活用できれば、譲渡所得が3,000万円以下であれば税金は一切かかりません。

適用条件は以下の通りです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること。
  • 相続開始直前において、亡くなった方以外に居住者がいなかったこと。
  • 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。
  • 売却価格が1億円以下であること。

売却前に家屋を取り壊して土地として売却する場合も適用される可能性がありますが、
条件があります。

取得費については特に注意が必要です。
相続の場合、亡くなった方が購入した当時の価格や、
その後に行った改良工事の費用が取得費となります。
しかし、購入時の資料が残っていないケースも少なくありません。
取得費が不明な場合は、売却価格の5%相当額を「概算取得費」として使用することになります。
これでは譲渡所得が大幅に増加し、税負担が重くなる可能性がありますから、
可能な限り資料を探し出すことが重要です。

税理士への相談が必要なケースとタイミング

相続不動産の売却に関する税務処理は非常に複雑で、一般の方が個人で対応するには限界があります。特に以下のような状況では、必ず税理士への相談をおすすめします。

  • 売却予定価格が高額な場合
    譲渡所得が発生する可能性が高く、税額も相当な金額になることが予想されます。
    「3,000万円特別控除」の適用可否や、
    その他の特例制度の活用について専門的な判断が必要になります。
  • 複数の相続人がいる場合
    共有名義で相続した不動産を売却する際は、各相続人の持分に応じて譲渡所得を計算し、
    それぞれが確定申告を行う必要があります。
    相続人間での意見調整や手続きの進め方についても、
    税務面からのアドバイスが重要になるでしょう。
  • 取得費が不明、または証明書類が不足している場合
    概算取得費を使わざるを得ないケースが多く、税負担が重くなる傾向があります。
    可能な限り実額での取得費算定を試みるべきですが、
    どのような資料が有効か、どの程度まで推定が認められるかについては専門知識が必要です。
  • 相続開始から時間が経過している場合
    亡くなった方の資料整理が不十分な場合や、3,000万円特別控除には売却期限があるため、
    適用要件の確認と必要な準備を計画的に進める必要があります。

相談のタイミングとしては、売却を検討し始めた段階が最も適切です。
売却価格の設定や売却時期の調整、必要書類の準備など、
税務面を考慮した売却戦略を立てることで、税負担を最小限に抑えることができます。
売却が決まってから慌てて相談するよりも、事前に専門家のアドバイスを受けることで、
より有利な条件で売却することが可能となるでしょう。

まとめ

相続で家を取得するということは、単に不動産を手に入れるという以上の意味を持っています。
それは故人との思い出が詰まった場所を受け継ぐことであり、
同時に将来にわたって責任を負うことでもあります。

相続による家の取得は、登記手続きや税務申告、維持管理など、
さまざまな手続きや負担が伴います。
特に相続税の申告期限は相続開始から10ヶ月と決まっており、
この期間内に評価や申告を適切に行わなければなりません。
また、固定資産税や都市計画税といった維持費用も毎年発生し続けるため、
長期的な資金計画も重要になってきます。

一方で、相続した家には、ご自身で住居として活用する、
賃貸に出して収益を得る、売却して現金化するなど、多様な選択肢があることも事実です。
どの選択が最適なのか、あなたの生活状況や家族構成、経済状況によって大きく異なります。
例えば、既に持ち家がある方にとっては賃貸収入を得られる投資物件として活用できる可能性があり、
住宅を必要としている方にとっては住居費の節約につながるかもしれません。

ただし、これらの判断を一人で行うのは決して簡単なことではありません。
不動産の評価方法、税制上の特例措置の適用可能性、将来的な市場価値の見通しなど、
専門的な知識が必要な要素が数多く絡んでくることが理由です。

だからこそ、相続で家を取得された際には、
できるだけ早い段階で専門家にご相談されることをおすすめします。
複雑に見える手続きも、
相続の手続きを得意とする専門家のサポートがあれば安心して進めることができるでしょう。
また、遺言や遺贈をはじめとした生前の対策を考える方も、
一人で悩まず、まずは専門家に相談して、ご自身にとって最良の選択肢を見つけてください。

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