警察官らが覚せい剤取締法違反容疑でXに尿の任意提出をもとめたが、Xがこれを拒んだため、警察官らは強制採尿令状の準備に入り、同令状の発付を得た。警察官らが令状をXに示したところ、無言であったため、Xを病院に連行したところ、Xは数回にわたり、「自分で出すよ。」と言っていたが実際にトイレに行くことはなかった。看護士がベッドに寝るように言うと、Xは「自分で出すと言ったのにひどいじゃないか。」と怒鳴ったが、警察官はそのまま強制採尿をするように指示した。
弁護人らは、強制採尿の直前、Xから任意提出を申し出ているにも拘わらず、捜査官が強制採尿を選択したのは違法であると主張した。
一審判決では、強制採尿手続は、捜査上真にやむを得ないと認められる場合に、最終手段として認められる強制処分であるとし、被疑者が強制採尿をする前に尿を任意提出すると言い出した場合、そのまま強制採尿の令状を執行するのは相当でなく、本件採尿手続は違法である疑いが残ると判示した。
本判決は、裁判官が、強制採尿令状を発付している以上、執行の段階において、常に任意提出の機会を与える必要があるとするのは行きすぎであり、捜査官としては、①それまでの強制採尿に至る経緯、②尿の任意提出を申し出た時期、③申出の真摯性等を勘案して、協定採尿を実際に実行するかどうかを判断できるというべきであるとした。
そして、本件においては、覚せい剤使用の容疑が濃厚であったこと、被告人は、午後2時20分頃から午後6時50分に強制採尿が開始されるまでの間、再三再四尿の任意提出を求められていたが尿を任意提出しなかったこと、覚せい剤所持の容疑についても素直に認める態度に出なかったばかりか、偽装工作をしようとした疑いもあること、等の諸事情に鑑みれば、強制採尿に踏み切ったことが不合理とは言えず、本件採尿手続を違法死すべきではないと判示した。
覚せい剤の使用が疑われる場合の尿の強制採尿については、明文でそれを直接認めた規定がなく、かつては、そもそもそのような手続が被疑者の人権保障の観点から許されるのかという争いがありました。
これに対して、最高裁は、昭和55年10月23日決定において、「被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続きを経てこれを行うことも許される」と判示し、厳格な条件の下、許容されることを明らかにしました。
この「犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合」というのは令状発付の要件であり、裁判官が令状を発付する段階で、捜査官が任意提出を求めているにもかかわらず被疑者がこれに応じないという事情が必要とされています。では、令状が発付されこれを執行する段階でも、任意提出の機会を与えなければならないかが本件の争点です。
この点、強制採尿手続が、真にやむを得ない場合に例外的に認められる手続きである点を強調すると、執行の段階でも、任意提出の機会を与えるのが相当ということになります。実際にも、尿の提出を拒んでいた場合でも、令状の発付を知ると尿の任意提出に応じる場合も多く、令状の発付を得たうえで最後の説得をするのは無意味ではありません。
もっとも、本判決が言うように、令状の執行段階で、常に任意提出の機会を与える必要があるとまでするのは合理的とは言えず、本件のように、被疑者が再三任意提出を求められていたのにそれを拒み、令状発布後も任意提出に応じるそぶりを見せながら結局トイレに行かなかった場合は、たとえ、その後任意性出をすると被疑者が言っても、期待できないとの捜査官の判断は、不合理なものとまでは言えないと思われます。
以上
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