不動産の名義変更(相続登記)は手続きが多く、
「何から始めればいいのか分からない」と悩む方も少なくありません。
さらに、遺言の内容(「相続させる」「遺贈する」など)によって、
遺言執行者が申請できる場面と、相続人・受遺者本人の申請が必要な場面が分かれます。
この記事では、遺言執行者として相続登記を進める前に押さえるべき基本知識を、
法改正(相続登記の申請義務化)も踏まえて丁寧に解説します。
遺言執行者とは?相続登記の前に知っておくべき基礎知識
遺言執行者として選任された場合、まずはその役割と権限の範囲を正確に理解することが重要です。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な行為を行う権限を持ち、
相続人はその執行を妨げることができないとされています(民法1012条)。
しかし、遺言執行者がすべての相続手続きを単独で行えるわけではなく、
遺言の内容や財産の種類によって関与の仕方は異なります。
権限や責任の範囲を正しく理解せずに手続きを進めると、
相続人とのトラブルにつながる可能性もあります。
ここでは、遺言執行者の基本的な法的立場と実務上の役割を整理し、
相続登記を進める前に押さえておくべきポイントを確認していきます。
遺言執行者の基本的な役割と任命された理由
遺言執行者とは、亡くなった方(被相続人)が遺した遺言の内容を実現するために、
必要な手続きや事務を行う人のことです。
民法1012条は、遺言執行者について
「遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と定めています。
また、遺言執行者がいる場合、
相続人は遺言の執行を妨げる行為をすることができないとされています(民法1013条)。
もっとも、遺言に関係のない財産処分まで自由にできるわけではなく、
あくまで「遺言の実現に必要な範囲」に限られます。
遺言執行者は、遺言書で指定されることが一般的ですが、
指定がない場合は家庭裁判所が選任することもあります。
被相続人が特定の人を指名する理由としては、
- 遺言の内容をよく理解している
- 信頼関係が厚い
- 相続人間で比較的中立的である
といった事情が考えられます。
親族だけでなく、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることもあります。
なお、遺言執行者に指定されても、必ず就任しなければならないわけではありません。
就任前であれば辞退は可能です。いったん就任した後に辞任する場合は、
正当な理由があるときに限り、家庭裁判所の許可が必要となります(民法1019条)。
主な業務内容は、
- 相続財産の調査および管理
- 遺言内容に基づく財産の引渡し
- 預貯金や不動産の名義変更
- 負債の弁済手続き
などです。
特に不動産の相続登記については、
遺言の内容(「相続させる」か「遺贈する」か)によって関与の仕方が異なります。
被相続人があなたを遺言執行者に指名したのは、
大きな信頼の表れです。法的な役割を正しく理解し、冷静に手続きを進めていきましょう。
相続登記における遺言執行者の法的権限と責任
遺言執行者は、民法1012条により「遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務」を有します。
単なる代理人ではなく、遺言を実現するための独立した法的地位を持つ存在です。
また、相続人は遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法1013条)。
もっとも、相続登記を単独で申請できるかどうかは、遺言の内容によって異なります。
①「相続させる」旨の遺言の場合
不動産を「Bに相続させる」とする遺言は、
判例上、相続分の指定・特定財産承継遺言と解され、
Bは被相続人の死亡と同時に当然に権利を取得します。
この場合、登記はB(取得した相続人)から申請するのが原則で、
遺言執行者が必ず単独で申請するとは限りません。
②「遺贈する」旨の遺言の場合
「Bに遺贈する」と記載されている場合、受遺者への所有権移転登記は、
原則として遺言執行者が義務者として関与し、受遺者と共同で申請します。
この場合、他の相続人の同意は不要です。
このように、遺言の文言によって手続きの主体が異なる点には注意が必要です。
遺言執行者の責任
遺言執行者は、相続人に対して善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)を負います。
職務上の故意または過失によって損害を与えた場合には、
損害賠償責任を負う可能性があります(民法1012条の解釈上)。
たとえば、
- 登記を長期間放置し、相続人に不利益が生じた場合
- 遺言内容と異なる名義で登記してしまった場合
などは責任問題になり得ます。
報告義務
遺言執行者は、相続人の請求があれば執行状況を報告する義務があります(民法1012条2項)。
実務上は、重要な手続きの前後に説明を行うことが、紛争防止の観点から望ましい対応といえます。
職務完了後は、財産の処理内容を明らかにして相続人へ報告することが適切です。
相続登記で遺言執行者(遺言の内容を実行する任務を負う者)が関わる際は、
手続きの概要を早めに把握し、遅滞なく進める対策が重要です。
他の相続人との関係で気をつけるべきポイント
遺言執行者には一定の強い権限がありますが、相続は家族間の問題でもあります。
法律上単独で進められる手続きであっても、説明や配慮を欠けば、
後々の紛争につながることがあります。
まず重要なのは、遺言執行者に就任した事実と遺言の内容を、相続人に適切に伝えることです。
遺言書が公正証書でない場合は、家庭裁判所での検認手続きが必要になる点にも注意しましょう。
今後の手続きの流れを説明することで、「勝手に進められた」という不信感を防ぐことができます。
遺留分への配慮
遺留分とは、配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属に法律上保障された最低限の取り分です。
ただし、遺言によって遺留分を侵害する内容を定めること自体は可能であり、
その場合は侵害された相続人が「遺留分侵害額請求」を行うことで金銭請求ができる、
という仕組みです(民法1046条)。
例えば「全財産を長男に相続させる」という遺言があっても、
配偶者や他の子は金銭による請求が可能です。
遺言執行者はその存在を理解しておく必要はありますが、
遺留分請求は当事者間の問題であり、遺言執行者が当然に調整義務を負うわけではありません。
手続きの透明性
登記申請が単独で可能な場合でも、
- いつ申請するのか
- どの内容で登記するのか
上記の内容を事前に共有することは実務上非常に重要です。
進捗報告は、民法1012条2項に基づき、相続人から請求があれば報告義務があります。
紛争防止の観点からも、定期的な情報共有が望ましいでしょう。
執行者が相続人でもある場合
遺言執行者自身が相続人であることは法律上問題ありません。
ただし、利益相反を疑われないよう、手続きの記録を残す、
専門家を関与させるなどの配慮が有効です。
行方不明の相続人がいる場合
相続人と連絡が取れない場合、
- 単に住所が分からないだけなら戸籍・住民票調査で足りることが多い
- 真に行方不明で財産管理が必要な場合は、不在者財産管理人の選任申立て(民法25条)を検討
といった区別が必要です。
相続登記の義務化について
2024年(令和6年)4月1日から相続登記は義務化され、
相続を知った日から3年以内に申請しなければ
過料(10万円以下)の対象となる可能性があります(不動産登記法76条の2)。
ただし「正当な理由」がある場合は直ちに過料になるわけではありません。
遺言執行者が単独で相続登記できる条件と判断方法
遺言執行者であっても、
遺言書の文言(「相続させる」か「遺贈する」かなど)や財産の取得形態によって、
登記申請の主体や方法は異なります。
場合によっては遺言執行者が単独で関与できるケースもありますが、
常に単独申請できるわけではありません。
ここでは、遺言書の内容からどのように判断すればよいのかを、
実務上の取扱いも踏まえて整理していきます。
遺言書に「相続させる」と記載がある場合の判断基準
遺言書に「不動産を○○に相続させる」と記載されている場合、
動産を取得します(遺産分割を経る必要はありません)。
したがって、登記実務上も、
当該相続人が単独で所有権移転登記(相続登記)を申請することが可能です。
遺言執行者の関与はどうなるか
「相続させる」遺言の場合、
原則として遺言執行者の関与がなければ登記できないわけではありません。
つまり、遺言執行者がいなくても、取得した相続人が単独で登記できます。
一方、遺言執行者が選任されている場合には、
遺言の執行として登記手続に関与すること自体は可能と解されています。
ただし、これは「必ず遺言執行者が申請しなければならない」という意味ではありません。
委任が必要なケース
遺言執行者が登記申請を代理して行う場合は、
- 相続人からの委任状を取得する
- 遺言書に執行者へ包括的な権限を付与する旨の記載がある
といった形で、代理権の根拠が明確であることが必要です。
「遺言執行者に登記申請を委任する」との明示的文言がなければ絶対に関与できない、
というわけではありませんが、実務上は委任状を取得するのが安全です。
実務上のポイント
- 「相続させる」遺言 → 相続人が単独で登記可能
- 遺言執行者は必須ではない
- 執行者が代理する場合は委任関係を明確にする
まずは遺言書の文言を正確に確認し、必要に応じて法務局や専門家へ相談するのが適切です。
「遺贈する」と記載されている場合
「不動産を○○に遺贈する」とある場合、これは相続とは異なり、
遺言によって財産を無償で譲る意思表示です(受遺者が相続人である場合もあります)。
この場合、登記実務上は受遺者(登記権利者)と、
遺言執行者または相続人(登記義務者)との共同申請となるのが原則です。
遺言執行者が選任されている場合には、執行者が登記義務者として関与するのが通常です。
ただし、「必ず単独で申請する」というわけではありません。受遺者との共同申請が基本形です。
したがって、「遺贈」の場合は、遺言執行者の関与が実務上重要になる、という理解が正確です。
相続の発生後、遺言書が保管されている場合は交付を受ける段階から開始し、
遺産の範囲(不動産・預金など)や相続税の有無、相続放棄の可能性まで含めて、
遺言に「遺贈する」旨が明記されている事例では、
遺言執行者が登記手続きを行い、
相続人側の協力が得にくい中でも円滑に進めやすいメリットがあります。
一方で、遺言の文言や法の規定の読み違いがあるとリスクが高まり、
通知や書類のやり直しが必要になることもあるため注意が必要です。
包括的な執行権限条項がある場合
遺言書に
「遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をすることができる」という文言がある場合でも、
これは民法1012条の内容を確認的に記載したものにすぎないのが通常です。
したがって、
- 遺言で定められていない財産処分
- 相続人固有の権利に関わる行為
上記の内容まで無制限に行えるわけではありません。
不動産登記についても、
- 「相続させる」なのか
- 「遺贈する」なのか
によって関与の仕方が異なります。
遺言書が複数ある場合
遺言書が複数存在する場合、
原則として後の日付の遺言が前の遺言に優先します(民法1023条)。
ただし、
- 内容が抵触しない部分は併存することもある
- 形式不備がある遺言は無効となる
など、単純に「最新のものがすべて優先」とは限りません。
検認や選任審判について
- 自筆証書遺言は原則として家庭裁判所の検認が必要
- 公正証書遺言は検認不要
- 遺言執行者が遺言で指定されていれば、通常は選任審判書は不要
- 指定がない場合に家庭裁判所が選任すると、選任審判書が必要
という整理になります。
法的効力を持つのは、遺言書に明確に記載された内容です。
付言事項(気持ちや背景説明)は原則として法的拘束力を持ちません。
遺言執行者に選ばれた場合、
まず確認すべきなのは「遺言のどの部分を自分が執行する立場にあるのか」です。
遺言書の文言によって、執行者の関与の範囲は大きく異なります。
曖昧な文言や解釈に迷う場合は、早めに司法書士や弁護士へ確認することが安全です。
複数相続人がいる場合の単独申請可否の見極め方
遺言執行者が相続登記に関与できるかどうかは、
- 遺言の文言(「相続させる」か「遺贈する」か)
- 財産の帰属形態(単独取得か共有か)
- 遺言により指定された範囲
によって異なります。単に相続人が複数いるという理由だけで、
直ちに単独申請ができなくなるわけではありません。
① 財産ごとに明確に分けられている場合
「A不動産は長男に相続させる」「B不動産は次男に相続させる」
といった特定財産承継遺言の場合、各相続人は被相続人の死亡と同時に当該不動産を取得します。
この場合、
✅ 各取得者が単独で相続登記を申請可能
✅ 他の相続人の同意は不要
となります。
遺言執行者が必ずしも登記申請を行う必要はありません。
ただし、代理人として関与する場合は委任状が必要です。
② 共有指定(持分指定)がある場合
「A不動産を長男と次男が各2分の1ずつ相続させる」とある場合、両名は共有で取得します。
この場合も、各共有者は単独で相続登記を申請できます。
(共有者全員の共同申請は不要です)
これは相続登記が「権利の保存的登記」にあたるためです。
ただし、遺贈の場合は原則として共同申請(受遺者+登記義務者)となるため、
文言の確認が重要です。
③ 遺言に記載のない財産がある場合
遺言に記載された財産については遺言の効力が及びますが、
記載のない財産については法定相続または遺産分割協議が必要になります。
この部分については、遺言執行者の権限は原則として及びません(遺言の執行に必要な範囲外)。
④ 相続人間に対立がある場合
法的に単独申請が可能であっても、
実務上は事前の説明・情報共有が望ましい場面は多くあります。
しかし、遺言執行者が法的権限に基づいて適法に登記を行った場合、
それ自体が違法となるわけではありません。
また、生前に信託(家族信託等)を活用して事業承継を設計していたケースは、
遺産相続の場面が複雑になりにくい反面、
信託以外の財産が残っていると登記が別途必要になることがあります。
必要書類リストと取得方法
遺言執行者として不動産の相続登記を行う場合、
被相続人・取得者・不動産に関する複数の書類を準備する必要があります。
これらは、法務局に対して「誰がどの権限で、どの不動産を取得するのか」を
証明するための重要な資料です。
取得先は市区町村役場や法務局、家庭裁判所などに分かれており、
戸籍や住民票は郵送請求も可能です。
なお、相続登記では戸籍等に厳密な発行期限はありませんが、
内容に変更がない最新のものを用意するのが実務上安全です。
ここからは、具体的な必要書類とその取得先、準備のポイントを整理していきます。
遺言執行者として必ず用意すべき書類チェックリスト
遺言執行者が不動産の相続登記を行う場合、
必要書類は「遺言の内容」と「取得原因(相続か遺贈か)」によって異なります。
まずは基本となる書類を正確に押さえることが重要です。
1.遺言書
最も重要なのが遺言書です。
自筆証書遺言の場合は、
家庭裁判所で検認を受けたうえで「検認済証明書付きの遺言書」を提出します。
公正証書遺言であれば検認は不要で、公証役場発行の正本または謄本を用います。
これにより、遺言の存在・内容・遺言執行者の指定を証明します。
2.遺言執行者の資格を証明する書類
遺言書で執行者が指定されている場合は、原則として遺言書自体で足ります。
家庭裁判所が選任した場合は、「遺言執行者選任審判書」と確定証明書が必要になります。
3.被相続人の戸籍(死亡の記載があるもの)
被相続人が死亡した事実を証明する戸籍(除籍・改製原戸籍)が必要です。
遺言による特定財産承継の場合は、出生から死亡までのすべての戸籍が必須とは限りません。
法定相続人の確定が不要なケースでは、死亡の確認ができる戸籍で足りることもあります。
4.被相続人の住民票除票または戸籍の附票
登記簿上の住所と死亡時の住所がつながることを証明するために提出します。
なお、住民票除票の保存期間は自治体によって異なり、
現在は原則5年を超えて保存されている場合もあります(一律5年とは限りません)。
5.不動産の固定資産評価証明書(最新年度)
登録免許税の計算のために必要です。
毎年4月に評価替えが行われるため、申請時点の最新年度のものを用意します。
原則不要なもの(誤解しやすい点)
- 遺言執行者の印鑑証明書
→ 相続登記(相続を原因とする所有権移転)では原則不要です。
※遺贈の場合など、共同申請となるケースでは別途必要になる場合があります。 - 相続人全員の戸籍
→ 遺言による特定財産承継の場合は、全員分が必須とは限りません。 - 登記事項証明書
→ 内容確認のため取得することは有益ですが、登記申請の添付書類ではありません。
ケースにより追加で必要となる書類
- 受遺者の住民票(遺贈の場合)
- 相続関係説明図(任意提出だが実務上有用)
- 遺産分割協議書(遺言で処理されていない財産がある場合)
相続登記の必要書類は、「遺言の形式」と「取得原因」によって変わります。
一律のチェックリストで判断するのではなく、自身のケースが
- 相続か遺贈か
- 執行者が指定か選任か
を確認することが重要です。
迷う場合は、事前に法務局や専門家へ確認することをおすすめします。
被相続人の書類取得方法と注意すべき期限
被相続人に関する書類は、「死亡の事実」と「登記名義人との同一性」を証明するために必要です。
ただし、必要となる戸籍の範囲は、遺言の内容や登記原因によって異なります。
戸籍謄本は必ず出生から死亡まで必要?
よく「出生から死亡までの戸籍が必要」と言われますが、
これは主に法定相続人を確定する場合(遺産分割や法定相続登記)に必要となるものです。
一方、
「相続させる」という特定財産承継遺言による登記では、
必ずしも出生から死亡までのすべての戸籍が必要とは限りません。
通常は、
- 死亡の記載がある戸籍
- 登記名義人と被相続人が同一であることを確認できる資料
があれば足りるケースもあります。
ただし、法務局の運用や事案によって追加資料を求められることもあるため、事前確認が安全です。
戸籍の取得方法
戸籍は本籍地の市区町村で取得します。
窓口請求のほか、郵送請求も可能です。
郵送の場合は通常、
- 請求書
- 本人確認書類の写し
- 手数料(定額小為替)
- 返信用封筒
を同封します。
戸籍自体に法的な有効期限はありません。
住民票除票の保存期間について
住民票の除票は、登記簿上の住所と死亡時住所のつながりを証明するために使います。
以前は保存期間が5年とされていましたが、
現在は保存期間の延長により、一律5年とは限りません。
自治体によって保存状況が異なるため、早めの確認が重要です。
除票が取得できない場合は、戸籍の附票などで代替することがあります。
発行期限がある書類について
相続登記において、
- 戸籍謄本
- 住民票除票
には原則として発行期限の制限はありません。
一方、固定資産評価証明書は「申請時点の最新年度」が必要
(毎年4月に更新)という実務上の注意があります。
なお、相続を原因とする登記では、原則として遺言執行者の印鑑証明書は不要です。
(遺贈による共同申請などの場合は別途必要になることがあります。)
不動産を特定するための登記関係書類の集め方
遺言執行者として登記申請を行うときは、
対象不動産を登記上の表示(地番・家屋番号など)で正確に特定することが不可欠です。
住所(住居表示)だけでは不動産を一意に特定できないことがあるため、
登記事項証明書や評価証明書などを使って申請書を作成します。
登記事項証明書で「不動産の表示」と「権利関係」を確認する
登記事項証明書(いわゆる登記簿謄本)は、
土地なら所在・地番・地目・地積、建物なら所在・家屋番号・種類・構造・床面積など、
登記申請に必要な表示が記載された公的証明書です。
所有者欄で、現在の登記名義人が被相続人になっているか、
抵当権などの担保権が付いているかも確認できます。
取得方法は、
法務局窓口、郵送請求、オンライン請求(登記・供託オンライン申請システム等)があります。
なお、「登記情報提供サービス」は登記内容を確認するには便利ですが、
原則として証明書(公的な提出書類)ではありません。
登記申請に添付する目的なら、登記事項証明書として取得するのが安全です。
固定資産評価証明書で登録免許税の計算に備える
登録免許税は、原則として固定資産評価額を基礎に計算します。
そのため、固定資産評価証明書(自治体によって名称が異なることがあります)を取得して、
対象不動産の評価額を確認します。
取得先は不動産所在地の市区町村(東京23区は都税事務所)です。
郵送請求に対応している自治体も多く、
請求書、本人確認書類の写し、手数料、返信用封筒などが求められるのが一般的です
(必要書類は自治体ごとに異なります)。
評価額は年度(通常4月始まり)で切り替わるため、
申請時期が年度をまたぐ場合は、
申請時点の年度の評価額が分かる証明書を取り直しておくのが実務上確実です。
古い年度の証明書でも直ちに無効と決まるわけではありませんが、
登録免許税計算の前提がずれるおそれがあるため注意が必要です。
名寄帳で「所有不動産の見落とし」を減らす
被相続人が所有していた不動産の全体像を把握したいときは、
名寄帳(自治体によっては「名寄帳兼課税台帳」等)が役立つ場合があります。固定資産税の課税対象となっている不動産が一覧で確認できるため、遺言書の記載が大まかな場合や、物件数が多い場合に「見落とし」を減らす助けになります。
ただし名寄帳は、自治体の運用や課税関係に左右されます。
非課税の土地や、課税台帳に反映されにくい共有持分などが載らないこともあり得るため、
名寄帳だけで確定せず、登記事項証明書などで最終確認するのが安全です。
住所(住居表示)と地番・家屋番号は別物
住居表示(例:○丁目○番○号)と、
登記上の地番(○番地)・家屋番号は一致しないことがよくあります。
登記申請では地番・家屋番号が必要なので、住所だけで書類を作るのは避けましょう。
地番や家屋番号が不明な場合は、
固定資産税の納税通知書や評価証明書に記載されていることがあります。
また、法務局で地番の特定に関する相談(地番照会等の取扱い)を行える場合もあるため、
手元資料が乏しいときは早めに確認するのが有効です。
委任状が必要となる主なケースと判断のポイント
遺言執行者として相続登記を進める場合、常に委任状が必要になるわけではありません。
ただし、誰が申請人になるか、誰が実際に手続きを行うかによって、委任状の要否は変わります。
1.遺言執行者本人が登記申請を行う場合
遺言執行者が自ら法務局へ申請する場合、原則として委任状は不要です。
遺言書(検認済み自筆証書遺言や公正証書遺言)や、
家庭裁判所の選任審判書などにより、執行者であることを証明できれば足ります。
なお、遺言執行者は「代理人」ではなく、
民法1012条に基づき自己の名で遺言執行を行う独立の地位にあります。
そのため、「代理権を持つ」というより、「法定の執行権限を有する」というのが正確です。
2.司法書士など専門家へ依頼する場合
登記申請を司法書士に依頼する場合は、
遺言執行者から司法書士への委任状が必要になります。
これは、遺言執行者が持つ登記申請権限を、
申請代理人である司法書士に委任するためのものです。
3.遺言執行者が複数いる場合
遺言執行者が複数名いる場合、原則として共同して職務を行うことになります(民法1017条)。
そのため、
- 全員で共同申請する
- 代表者を定めて他の執行者が委任する
といった整理が必要になります。
代表者に任せる場合は、他の執行者から代表者への委任状が必要です。
4.第三者へ一部業務を任せる場合
遺言執行者は、職務を当然に他人へ丸ごと委ねられるわけではありません。
ただし、書類提出や受領などの事務的行為については代理人に委任することが可能です。
この場合も、委任の範囲を明確にした委任状を作成します。
判断の整理
- 自分で申請する → 委任状不要
- 司法書士に依頼する → 執行者から司法書士への委任状必要
- 執行者が複数いる → 原則共同、代表者に任せる場合は委任必要
- 事務補助のみ委ねる → 範囲を限定した委任状が必要
申請前日までに準備しておくべきこと
法務局での相続登記をスムーズに進めるためには、
事前準備が非常に重要です。
不足書類があると補正や再提出が必要になり、手続きが長引いてしまいます。
特に法務局は平日日中のみの対応が基本のため、一度で申請できるよう整えておきましょう。
必要書類の最終確認
遺言執行者が相続登記を行う場合、必要書類は遺言の内容や登記原因によって異なります。
一般的には以下が必要になります。
- 遺言書(自筆証書遺言の場合は検認済証明書付き/公正証書遺言は正本または謄本)
- 被相続人の戸籍(死亡の記載があるもの。法定相続人の確定が必要な場合は出生から死亡まで)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 不動産の固定資産評価証明書(最新年度)
- 遺言執行者の印鑑証明書(発行後3か月以内)
- 登記申請書
※「相続人全員の戸籍謄本」は、
遺言の内容によっては不要な場合もあります(特定財産承継遺言など)。
ケースに応じて確認が必要です。
※登記事項証明書は内容確認のため取得することが望ましいですが、
申請時の添付書類としては必須ではありません。
原本還付を受けたい書類は、コピーと原本を併せて提出します。
登記申請書の作成
登記申請書は事前に法務局ホームページから様式をダウンロードして作成しておくと安心です。
特に注意すべき点は以下です。
- 登記の目的(例:所有権移転)
- 登記原因(例:令和○年○月○日相続)
- 不動産の表示(登記事項証明書どおり正確に記載)
- 被相続人の氏名・住所(戸籍・登記簿と一致)
手書きの場合は黒インクで記載し、誤記があれば訂正印で修正します。
登録免許税の計算と納付準備
相続による所有権移転登記の登録免許税は、
固定資産評価額 × 0.4%です。
例:評価額2,000万円の場合
→ 2,000万円 × 0.4% = 8万円
納付方法は原則として、
- 収入印紙を申請書に貼付
- またはオンライン申請の場合は電子納付
です。
「窓口で現金納付」という制度は通常ありません。
収入印紙は事前に郵便局などで購入しておきましょう。
管轄法務局の確認
登記は、不動産所在地を管轄する法務局へ申請します。
被相続人の住所地ではありません。
現在は、
- 窓口申請
- 郵送申請
- オンライン申請
が可能です。
窓口相談は予約制のこともあるため、事前確認をおすすめします。
当日の持ち物確認
- 登記申請書
- 添付書類一式(原本+コピー)
- 印鑑(申請書に押印したもの)
- 本人確認書類
- 登録免許税分の収入印紙
- 筆記用具
※実印・認印を複数持参する必要は通常ありません。
※印鑑証明書提出がある場合は、押印した印鑑と一致していることが重要です。
まとめ
遺言執行者は、被相続人の遺言内容を実現するために必要な行為を行う権限を持つ立場です。
そのため、遺言の内容によっては、不動産の相続登記を申請することも可能です。
しかし、すべてのケースで遺言執行者が単独で登記できるわけではありません。
遺言書に「相続させる」と記載されている場合(いわゆる特定財産承継遺言)には、
原則として不動産を取得する相続人が登記申請人となります。
一方、「遺贈する」と記載されている場合には、遺言執行者の関与が必要となり、
執行者が登記手続きを進める場面が生じます。
このように、文言の違いによって手続きの主体や必要書類が変わるため、
遺言書の正確な読み取りが重要です。
また、法律の改正により令和6年4月から相続登記が義務化され、
不動産を取得した相続人は原則として3年以内に登記申請を行う必要があります。
正当な理由なく放置した場合は過料の対象となる可能性もあるため、
早めの対応が求められます。遺
言執行者として関与する場合も、義務の対象者や期限を正しく理解しておくことが大切です。