Bが経営する介護付有料老人ホームに入居していたAは、入居3日目、自室で朝食を摂っていたところ、提供されたロールパンを誤嚥し窒息死した。Aの相続人であるCからBに対し、債務不履行ないし不法行為に基づき損害賠償請求がなされた事案
Bは、介護事業者として、入居契約及び関係法令に基づき、Aに対してその生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)があるとした上で、①BはAが前病院での入院中に食堂の既往歴や食後嘔吐があった事実を把握し、主治医からも「時折嘔吐を認めています。誤嚥を認めなければ経過観察でよいと思います。」との伝達を受けており、その伝達内容が抽象的であり明瞭で内面があるものの、これにより誤嚥の危険性があることを認識することは医療の専門家でない読み手でも必ずしも困難でないこと、②高齢者の事故で転倒と誤嚥が多いことは周知の事実であり、高齢者を扱う介護事業者スタッフが、前記伝達内容からして、Aに対しては通常の入居者以上に誤嚥ついて注意を払う必要があることを把握できないはずがないこと、等から、Bには協力医療機関と連携をとり、少なくても初回の診療・指示があるまでの間は、Aの誤嚥防止に意を尽くす注意義務があったことを認めました。
そして、Bは、Aを居室で食事させていたにも拘わらずナースコールを入居者の手元に置くこともなく、見回りについても配膳後20分間も放置していたのであるから、誤嚥が起きても発見できる状態ではなかったと言え、Aの誤嚥防止に適切な処置が執られていたとは言えず、Aの身体に対する安全配慮義務を欠いた過失がある、としました。
裁判所は以上のように判断し、Bに対し2000万円を超える賠償責任を命じました。
高齢化社会を踏まえて、介護施設等も増加し、それに伴い事故も増える傾向にあります。一般に、施設側は、入居者の生命・身体の安全に配慮する義務(これを「安全配慮義務」といいます。)を契約上負っており、施設内で事故が発生した場合、入居者側が施設の責任を問える可能性があります。
しかし、事故が起きる状況は千差万別であり、事故の全てについて施設側が責任を負うわけではありません。そこで、どのような場合に施設側の安全配慮義務違反を問えるのかが問題となりますが、その判断は容易ではなく、裁判例もその判断が分かれています。
本裁判例の原審(一審判決)は、施設側の責任を認めませんでしたが、その理由の重点は、介護事業者スタッフは、医療の専門家ではなく、高度の注意義務を課すことはできないという点にあると思われます。しかし、大阪高裁は、例え医療の専門家でなくても、介護事業者スタッフには専門家して経験及び判断能力がある点を重視し、それを前提として本件では、Aの誤嚥の危険は予見できたとし、それを防ぐための適切な措置がとられなかったとして、一審判決を覆し、介護事業者の責任を認めました。
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