「親の持ち家を相続したくない」
「相続放棄をすれば家の管理からも解放される」
と考えている方もいるのではないでしょうか。
しかし、相続放棄をしたからといって、必ずしもすぐに実家や持ち家と無関係になれるわけではありません。
相続放棄をした人がその家を現に管理・占有している場合、次の相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで、
保存義務を負う可能性があります。
老朽化した家を放置すると、倒壊や近隣トラブルにつながるおそれもあるため注意が必要です。
また、相続放棄前に家財を処分したり、遺品を勝手に売却したりすると、
相続財産を処分したとみなされ、相続放棄に影響するケースもあります。
この記事では、相続放棄した持ち家がどうなるのか、家の管理義務が残るケース、
放棄前後にしてはいけない行為、トラブルを避けるための注意点を弁護士の視点から解説します。
相続放棄後の家と土地の所有権
「相続放棄をすれば、その瞬間から家の管理義務から解放される」という考え方には注意が必要です。
家庭裁判所で相続放棄が受理されても、家や土地そのものが直ちに消滅したり、
自動的に国のものになったりするわけではありません。
相続放棄によって権利がどのように移り、最終的に誰のものになるのか、
まずは以下の流れを確認しましょう。
【権利移動と最終帰属の流れ】
- 相続放棄が受理されると、その人は初めから相続人ではなかったものとして扱われる
- 同順位の相続人がいなければ、次順位の法定相続人へ相続権が移る
- すべての法定相続人が放棄すると「相続人不存在」の状態になる
- 必要に応じて家庭裁判所で相続財産清算人が選任される
- 清算人が債務の弁済や財産の清算を行い、最終的に残った財産が国庫へ帰属する
法定相続人の中で相続権が移動する仕組みと帰着先
相続放棄が受理されると、法律上は「初めから相続人ではなかった」ものとして扱われます。
ただし、実家の相続権そのものが消滅するわけではなく、
同順位または次順位の法定相続人へ移る可能性があります。
相続権が移る順番は、民法で以下のように定められています。
- 常に相続人:配偶者
- 第1順位:子(子が亡くなっている場合は孫等)
- 第2順位:親(親が亡くなっている場合は祖父母等)
- 第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)
自分だけが相続放棄をしても、他の相続人や次順位の親族が相続人になることがあります。
そのため、何も伝えずに放棄すると、
親族間で「突然、家の問題を引き継ぐことになった」とトラブルになる可能性があります。
また、固定資産税は原則として不動産の所有者などに課されますが、
相続関係が整理されていないと、自治体から相続人代表者への連絡や納税通知が届くこともあります。
親族間の混乱を避けるためにも、相続放棄を検討している場合は、
事前に関係者へ伝えておくことが望ましいでしょう。
最終的に第3順位までの相続人が全員放棄すると、相続人がいない状態になります。
ただし、その場合でも家や土地がすぐに国のものになるわけではありません。
国庫に帰属させるには、相続財産清算人による清算手続きが必要になります。
最終的に国庫へ帰属するまでの流れと清算人の必要性
「親族全員が相続放棄すれば、空き家は自動的に国のものになる」と考えるのは正確ではありません。
誰も相続しない家や土地でも、国が当然に引き取ってくれるわけではなく、所定の清算手続きが必要です。
相続人がいない場合、利害関係人などが家庭裁判所に申し立て、
相続財産清算人を選任してもらうことがあります。
相続財産清算人は、相続財産を管理し、債権者への弁済や財産の清算を行います。
そのうえで、残った財産があれば最終的に国庫へ帰属します。
なお、相続放棄をした人が、放棄時にその家を現に占有している場合には、
次の相続人や相続財産清算人へ引き渡すまで、
自己の財産と同じ注意をもって保存する義務を負う可能性があります。
たとえば、実家に住んでいる、鍵を管理している、家財を保管しているなどの事情がある場合は注意が必要です。
一方で、相続放棄をした人が家をまったく占有していない場合まで、当然に管理義務を負うとは限りません。
管理義務の有無は、家との関わり方や占有状況によって変わるため、自己判断で放置するのは避けましょう。
確実に実家の負担から離れたい場合は、相続放棄だけでなく、
相続財産清算人の選任が必要かどうかもあわせて検討することが大切です。
相続放棄後も残る保存義務の正体
2023年の民法改正により、相続放棄をした人が負う保存義務のルールが整理されました。
まずは以下の比較表で、法改正の前後における違いを確認しましょう。
| 項目 | 2023年改正前 | 2023年改正後 |
| 義務を負う可能性がある人 | 相続放棄をした人が広く対象になり得た | 相続放棄時に相続財産を「現に占有している」人 |
| 義務の内容 | 相続財産の管理継続義務 | 自己の財産と同一の注意による保存義務 |
| 義務の終了タイミング | 次の相続人が管理できるようになるまで | 他の相続人や相続財産清算人などに財産を引き渡すまで |
法改正により、相続放棄後に義務を負うかどうかは、
「放棄時に相続財産を現に占有しているか」が重要になりました。
相続放棄をした人が実家を事実上管理・支配している場合は、放棄後も一定の保存義務を負う可能性があります。
改正民法で定められた保存義務の発生条件と占有
改正民法では、相続放棄時に相続財産を「現に占有」している人に、一定の保存義務が課されます。
保存義務とは、他の相続人や相続財産清算人などへ引き渡すまで、
自己の財産と同じ程度の注意をもって財産を保存する義務のことです。
法律上の「占有」は、単に家に住んでいる場合だけを指すものではありません。
建物を事実上支配していると評価される場合には、占有に当たる可能性があります
- 実家の鍵を預かり、出入りや管理をしている
- 自分の家具や衣類などを実家に置いたままにしている
- 定期的に実家へ通い、草むしりや換気などを行っている
- 親の死後もそのまま実家に住み続けている
ただし、これらに当てはまるからといって、必ず保存義務を負うと断定できるわけではありません。
実際に占有しているといえるかどうかは、家との関わり方や管理状況によって判断されます。
「少し様子を見に行っただけだから問題ない」と自己判断せず、
相続放棄を検討する段階で専門家に確認しておくと安心です。
保存義務を怠った場合に発生する損害賠償のリスク
保存義務を負っているにもかかわらず、必要な対応をせずに放置すると、
近隣トラブルや損害賠償の問題につながるおそれがあります。
老朽化した空き家は、倒壊、部材の飛散、不法侵入、放火などのリスクがあるためです。
具体的には、以下のようなトラブルが想定されます。
- 台風で屋根材が飛び、隣家の窓ガラスや車を傷つける
- 老朽化したブロック塀が倒れ、通行人にけがをさせる
- 庭のゴミや雑草を放置した結果、不審火や害虫被害につながる
民法では、土地工作物の設置または保存に瑕疵があり、
他人に損害を与えた場合、占有者や所有者が責任を負う可能性があります。
そのため、相続放棄をしたからといって、現に占有している家を放置しても一切責任を負わないとは限りません。
損害賠償リスクを避けるためにも、相続放棄後に保存義務を負う可能性がある場合は、
建物の危険箇所を確認し、必要に応じて他の相続人や相続財産清算人へ引き渡す手続きを検討しましょう。
単純承認を招くNG行動と注意点
相続放棄を検討しているなら、親の家や預金を安易に処分しないよう注意が必要です。
良かれと思ってとった行動でも、「相続を承認した」と判断され、単純承認とみなされる可能性があるためです。
形見分けや遺品整理で注意すべき境界線
遺品整理でどこまで対応してよいかは、慎重な判断が必要です。
法的には、親の財産を「処分したか」「隠匿したか」「私的に消費したか」が重要なポイントになります。
【問題になりにくい行動】
- 資産価値の乏しい写真や手紙を形見として保管する
- 放置すると腐敗する生鮮食品を処分する
- 自分の財産から社会通念上相当な葬儀費用を支払う
【単純承認とみなされる可能性がある行動】
- 親の財布から現金を抜き出し、自分のために使う
- 親の預金口座のお金を使って、光熱費や税金を支払う
- 親のスマートフォンを操作し、有料サービスを解約・整理する
- 実家の家電や骨董品を売却して換金する
相続財産を売却したり、私的に使ったり、価値ある財産を処分したりすると、
単純承認と判断されるおそれがあり、注意が必要です。
一方で、財産価値のないものの整理や腐敗防止のための処分などは、
保存行為として問題になりにくい場合もあります。
迷う場合は自己判断で進めず、事前に弁護士へ確認しましょう。
建物の解体や一部売却が相続放棄に影響するリスク
実家が老朽化した空き家であっても、相続放棄前に自己判断で解体や売却を行うのは避けるべきです。
解体や売却は、相続財産を自分のものとして処分したと評価され、相続放棄に影響する可能性があります。
不動産の現状を大きく変更する行為は、
単なる保存行為を超えた処分行為とみなされるおそれがあるためです。
- 建物を解体し、更地にしてから相続放棄しようとする
- 雨漏り対策を超えて、屋根や壁を大規模にリフォームする
- 固定資産税の支払いに充てるため、敷地の一部を売却する
- 家屋内の価値ある骨董品を業者に買い取ってもらう
これらの行為は、民法上の「法定単純承認」に該当する可能性があります。
その場合、借金を含めた相続財産を引き継ぐことになり、相続放棄ができなくなるおそれがあります。
倒壊や近隣被害を防ぐために対応が必要な場合でも、
どこまでが保存行為として認められるかは個別事情によって異なります。
危険な空き家であっても、自己判断で解体や売却をせず、まずは弁護士や自治体に相談しましょう。
相続放棄後の保存義務から離れるための方法
相続放棄後に保存義務が残る可能性がある場合、
その責任から離れるには適切な法的手続きを検討する必要があります。
ここでは、実家や土地の負担を整理するために知っておきたい2つの制度について解説します。
相続財産清算人の選任手続きと予納金の費用目安
相続放棄後の保存義務から離れるための方法として、
家庭裁判所で「相続財産清算人」を選任してもらう手続きがあります。
相続放棄をした人が、放棄時に家を現に占有している場合でも、
他の相続人や相続財産清算人へ財産を引き渡すことで、保存義務が終了する可能性があります。
ただし、申立てには「予納金」と呼ばれる費用が必要になることがあります。
- 予納金の目安は数十万円から100万円程度になることがある
- 予納金は、相続財産清算人の報酬や不動産の管理・換価にかかる費用に充てられる
- 相続財産から費用を賄える場合、予納金の一部が戻ることもある
- 一方で、財産価値が乏しい場合は返還されない可能性もある
予納金の負担は軽くありませんが、空き家の管理や近隣トラブルのリスクを整理するための選択肢になります。
保存義務が残る可能性がある場合は、相続放棄とあわせて清算人選任の必要性も検討しましょう。
相続土地国庫帰属制度の利用条件と注意点
「新しい制度を使えば、不要な実家をそのまま国が引き取ってくれる」と考えるのは正確ではありません。
2023年に開始された相続土地国庫帰属制度は、相続などで取得した土地を、
一定の要件を満たした場合に国庫へ帰属させる制度です。
まず、対象は「土地」であり、建物がある土地は原則としてそのままでは承認されません。
そのため、建物付きの実家の場合は、制度の利用前に解体などが必要になることがあります。
ただし、解体を行うと相続財産の処分と評価される可能性もあるため、
相続放棄を検討している段階では自己判断で進めないよう注意が必要です。
さらに、以下のような土地は承認されない、または審査で問題になる可能性があります。
- 建物や工作物が残っている土地
- 通常の管理や処分を妨げる地下埋設物がある土地
- 隣地との境界が明らかでない土地
- 土壌汚染や崖地など、管理に過分な費用や労力がかかる土地
つまり、売却や管理が難しい土地ほど、制度を利用できない可能性があります。
審査を受けるには審査手数料が必要で、
承認された場合には原則として20万円を基本とする負担金の納付も必要です。
建物の解体費用や測量、境界確認などの費用まで考慮すると、
相続財産清算人の予納金とどちらが適しているかはケースによって異なります。
実家の状態、土地の価値、相続放棄の有無を踏まえて、弁護士や司法書士に相談しながら判断しましょう。
実家の相続放棄で相談すべき専門家
相続放棄後の保存義務や空き家管理の不安を整理するには、専門家へ相談することが大切です。
ただし、誰に相談すべきかは、相続の状況やトラブルの有無によって異なります。
- 司法書士:戸籍収集や相続放棄申述書の作成、裁判所への提出書類を整えたい場合
- 弁護士:他の相続人との紛争がある場合、債権者対応が必要な場合、
相続財産清算人の選任まで含めて相談したい場合
親が亡くなり実家が空き家になる可能性があるときや、
管理・保存義務に不安があるときは、早めに相談を検討しましょう。
専門家へ依頼するメリットと費用の目安
専門家へ依頼するメリットは、手続きの不備を防ぐことだけでなく、
精神的な負担を軽減できることです。一般的な費用の目安は以下の通りです。
- 司法書士:3万円〜10万円程度
- 弁護士:10万円〜20万円程度
ただし、費用だけで依頼先を選ぶのは避けた方がよいでしょう。
相続放棄の申述だけでなく、放棄後に保存義務が残る可能性や、
相続財産清算人の選任が必要かどうかまで説明してくれる専門家を選ぶことが大切です。
3ヶ月の期限を過ぎないための早期相談と救済措置
相続放棄には「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」という期限があります。
この期間を過ぎると、原則として相続放棄が難しくなるため注意が必要です。
時間が足りない場合は、以下のような対応を検討します。
- 熟慮期間の伸長申立て:
3ヶ月の期限が切れる前に家庭裁判所へ申し立て、財産調査や判断のための期間を延ばしてもらう手続き - 期限経過後の相続放棄:
借金の存在を後から知った場合など、事情によっては認められる可能性があるが、個別判断になりやすい
実家を相続するか放棄するかを判断するには、
不動産の価値、管理状態、借金の有無、他の相続人の意向などを確認する必要があります。
自己判断で放置せず、早めに専門家へ相談し、
相続放棄・相続財産清算人の選任・相続土地国庫帰属制度など、状況に合った方法を検討しましょう。
まとめ
被相続人が死亡した時点で、持ち家や預貯金などのプラスの遺産だけでなく、
借金などのマイナスの負債も相続の対象に含まれます。
相続放棄をすれば、基本的に遺産を引き継がずに済みますが、
家を現に占有しているなら、その後も保存義務や管理責任が残る可能性があります。
相続放棄を検討する際は、遺言書や遺言の有無、遺産分割協議の状況、
相続税申告や登記の必要性などを一覧で整理すると良いでしょう。
注意すべき点と対処法
持ち家の相続放棄では、外壁の崩落、空き家の管理、固定資産税、ほかの相続人からの請求など、
複雑な問題が多いです。
遺品を勝手に処分したり、ビルや土地を売却したりすると、相続を承認した扱いになる原因にもなります。
もしプラスの財産とマイナスの負債の割合が不明確なら、限定承認も選択肢です。
ただし、限定承認は手順が複雑で手間もかかるため、法律の知識が欠かせません。
遺留分侵害額請求、特別縁故者、第三者との共有関係などが関連する事例では、早めの相談が重要です。
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所属弁護士の取扱分野には、遺産相続のほか、離婚や交通事故など別分野が含まれることもあります。
相談先を選ぶ際は、事務所の名称、費用の金額、報酬料、サポート範囲、登録情報などを確認しましょう。
相続放棄で管理責任を免れるには、自己判断で進めるのではなく、専門家と一緒に対処法を検討することが大切です。