窃盗犯人である被告人が、パトカーからの追跡を免れるため、片側一車線の道路を自動車で逃走し、対向車とすれちがいざまに先行車両を追い抜き、さらに後続の対向車とすれ違ったところ、対向車の後方を走行していた自動二輪車と衝突し、運転手である被害者を死亡させた事案。
パトカーの追跡をかわすことが主たる目的であったとしても、反対車両が接近しており、そのままの状態で走行を続ければ、後続する対向車の走行を妨害することは確実であるとの認識を有する状態で自動車の走行を続ける場合には、刑法208条の2第2項にいう「人又は車の通行を妨害する目的」が肯定される。
刑法208条の2第2項に定められている通行妨害運転致死傷罪は、過度の煽り行為や、故意の行為による割り込み・幅寄せ・進路変更など、悪質な交通違反に基づく事故が頻発したため立法されたものです。法文上、「人又は車の通行を妨害する目的」で自動車を走行させる場合に成立する目的犯です。そして、本罪の目的としては、重大な交通の危険を生じさせることの認識とともに、相手の自由かつ安全な通行妨害を積極的に意図することが必要であるとされています(大谷實「刑法各論」より)。
本件においては、被告人が同条の実行行為と認められる状態で車両を走行させたのは、パトカーから逃れる目的が主たる目的ではありましたが、そのような目的があるからといって、上記のような意図が排除されるわけではなく(目的がそれぞれ併存しうる)、したがって、本条の目的の存在が肯定されたこととなります。
なお、同罪のうち、人を死亡させた場合の法定刑は、1年以上の懲役刑とされており、罰金刑の定めがありません。悪質な交通違反に対して社会の目が厳しくなったことの現れであると思われます。
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