子供から風邪をうつされたらしい所長の菅田です。
裁判等の法律実務の世界においては、法令が最大の拠り所になることはもちろんですが、それに加えて、裁判所が出した過去の判断(裁判例ということが多く、その中で、最高裁判所の判断を特に「判例」といいます。)が大きな意味を持ちます。
法令というのは、その性質上、どうしても一般的・抽象的なものになりますので、各々の事案の解決に必要なことが、全て法令で定められているわけではありませんし、具体的事実の法令へのあてはめは、法令の文言をいくら読んでも答えが出てこないことが多いからです。
一つの法律上の争点について、ほとんどの場合、肯定説、否定説、折衷説などがありますので、裁判所はそれほど一人の学者の考え(これを「学説」といいます)を尊重しません(勿論、多くの学者が賛同する学説(これを「通説」といいます。)であれば別ですが。)。
しかし、最高裁判所の判断は、法令の最終判断権者たる裁判所の判断ですので、裁判実務上、法令と同様の重みをもっていますし、それ以外の裁判所の判断でも、それが積み重なれば、かなりの説得力を持ってきます。そこで、弁護士は、争点となっている論点について、こちらに有利な判断をした裁判例がないかを必死になって探すわけです。
最近、印象に残った裁判例がありますので、以下紹介します。
事案は詳細にはかけませんが、いわゆる子供の引き渡しに関する案件です。私は、母親の代理人として、相手方に子供たちの引き渡しを求めました。
相手方は、親族ですが親権者ではありませんでしたので、親権に基づき引き渡しを求めるこちらの主張は合理的なものであり、相手方の代理人は、自分たちが不利と思ったのか、しきりに、子供たちの意思を強調してきました。相手方のもとにいる子供たちが、母親のもとに絶対戻りたくないと言っている、弁護士の自分たちにもそう言っている、だから子供たちの引き渡しは認めるべきではない、という主張・論理です。
確かに、夫婦間で親権を争う場合は、子供の引き渡し請求において、裁判所の判断において、子供の意思が一定の判断要素となることはあります。そこで、本件でも、子供の意思をどの程度考慮するべきか、これが争点となりました。
こちらは、これに関する審判例を調べ、8歳4ヶ月の子供の意思を尊重するべきではないという審判例を探し出し、裁判所に提出しました。
皆さんは、8歳4ヶ月の子供がどちらの監護者のもとで生活するほうがよいかを判断できると思いますか?
前提の知識を何もいれずに問われれば、8歳にもなれば、判断できるようにも思えます。実際、今回の事件でも、上の子供は、自分はもう8歳だから、どちらで生活したほうがいいかはわかる、母親のもとには戻りたくない、相手方のもとで生活したいと明確に言っていました。
しかし、裁判所は、こちらへの引き渡しを命じる判断をしました。これにより、即日引き渡しが執行され、子供たちは母親のもとに戻りました。
私が驚いたのは、戻った後の、子供たちの環境への順応の速さです。数か月にわたり、母親のもとを離れていたのに、ほんの1、2週間で、子供たちは、新しい環境にすっかりなじんでいました。執行の際、絶対帰らないと泣き叫び、あれだけいわきには行きたくないと言っていた長女も、こちらの新しい学校に行くのが楽しみだと言っていました。
このような変化は、正直、私の想像の範囲外であり、今回のこの子供たちの言動を見て、私は、私が提出した裁判の裁判官の判断は卓見だと思いました。裁判というのは、生の事件を前提に出す判断です。具体的事案において、子供が明確に意思を示しているのに、その意思は尊重できないとの判断を示すことは、結構勇気がいることだと思います。多分、負けた側からは、何もわかっていない裁判官だと思われたのではないでしょうか。
しかし、その判断の正しさは、今回の事件を見ても証明されています。一裁判官の判断であり、決して著名な裁判例ではありませんが、広い意味で法曹としての先達の残した財産に、改めて畏敬の念を覚えた次第です。
以上
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