普通傷害保険契約(以下、「本件保険契約」という。)の契約者兼被保険者Aは、吐物を誤嚥して窒息し、死亡した。そこで、保険金受取人であるXが、保険者であるYに対し、死亡保険金の支払いを求めた。
本件保険契約の約款(以下、「本件約款」という。)には、以下の内容が定められていた。
①Yは、被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に被った傷害に対して、保険金を支払う。
②Yは、①の傷害を被り、その直接の結果として、事故の日からその日を含めて180日以内に死亡したときは死亡保険金を支払う。
本件では、吐物の誤嚥が、「外来の事故」に該当するのかが争点となった。
これに対し、一審の神戸地裁はXの請求を認めましたが、二審の大阪高裁は、「外来の事故」の意義を、外部からの作用が直接の原因となって生じた事故を言うとして、Aの窒息の原因となった気道反射の著しい低下は、体内に摂取したアルコールや服用していていた薬物の影響による中枢神経の抑制等によるものであるから、外部からの作用が直接の原因となって生じたものではないとして、Xの請求を棄却した。Xが不服として上告。
「外来の事故」とは、その文言上、被保険者の身体の外部からの作用による事故をいうものであると解される(最高裁平成19年7月6日判決)。
本件約款において、保険金の支払事由である事故は、これにより被保険者の身体に傷害を被ることのあるものとされているのであるから、本件においては、Aの窒息をもたらした吐物の誤嚥がこれに当たるというべきである。そして、誤嚥は、嚥下した物が食道にではなく気管に入ることをいうのであり、身体の外部からの作用を当然に伴っているのであって、その作用によるものというべきであるから、本件約款にいう「外来の事故」に該当すると解することが相当である。
この理は、誤嚥による気道閉塞を生じた物がもともと被保険者の胃の内容物であった吐物であるとしても、同様である。
このように判示し、原判決を破棄し、原審に差し戻しました。
傷害保険金が下りる「外来の事故」とは、外部からの作用による事故をいい、身体の内部に原因がある疾病による事故を除外することに意味があるとされています。たとえば、胃潰瘍により胃に穴が開いても「外来の事故」ではなく、傷害保険は下りないわけです。
もっとも、本件のように、外部からの作用による事故に当たるか否かの判断が困難な場合もあります。吐物の誤嚥の場合、食物を直接のどに詰まらせるのと異なり、一度身体内に入ったものが体内の反射作用を得てのどに詰まったものですので、これを外部からの作用による事故と言えるかどうか疑念があるわけです。 しかし、最高裁は、嚥下した物が食道にではなく気管に入る誤嚥は、身体の外部からの侵襲(作用)であるとして、「外来の事故」に該当するとしました(大阪高裁のような限定をしなかったわけです。)。吐物であっても、嘔吐の結果、一度口腔内に入ったものを誤嚥したという点では、食物を直接誤嚥した場合と異ならないと考えられ、吐物の誤嚥そのものを外来の事故ととらえたものと考えられます。
このように、「外来の事故」を単に外部からの作用とすることに対しては、範囲が無限定に拡大されるのではないかとの批判もありますが、外来性以外の要件や免責事由の解釈によって不当な結論は避けられると思われます。いずれにせよ、「外来の事故」の解釈にあたって参考となる判決です。
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