亡Aが、都心のビル内にある飲食店において同僚らと飲酒をした帰りに、同ビル内に設置されているエスカレーターの手すり部分に寄りかかったところ、そのまま後ろ向きに引き上げられ、エスカレーターの吹き抜け背後から転落し、死亡した。
本件は、亡Aの両親(X1、X2)が、ビルの所有者であるY1及び占有者であるY2に対して民法717条1項の工作物責任を、エスカレーターを製作したY3に対しては製造物責任を追及するため提訴した事案である。
東京地裁は、Y1及びY2に対する請求については民法上の「瑕疵」が存在しないとして、Y3に対する請求については製造物責任法上の「欠陥」が認められないとして、X1らの請求を全て棄却した。
①Y1、Y2に関し
本判決は、民法717条1項における「瑕疵」の有無の判断基準について、当該工作物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきであると判示し従前の裁判例を踏襲した上で、本件においては、具体的事情に照らすと、エスカレーターには瑕疵がないと判断しました。
②Y3に関し
製造物責任法上の「欠陥」とは当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。エスカレーター本体及びその構成物である手すりについては、製造物責任法3条における引渡し時において製造物たる動産であったため、「製造物」には該当するが、本件においては「欠陥」の存在が認められず、したがって、製造物責任法2条における責任を負わないと判示しました。
以上の判断に照らすと、民法上の工作物責任における「瑕疵」の判断基準及び製造物責任法上の製造者責任における「欠陥」の意義については、下級審においても概ね判断が統一されていると思われます。
特に、上記②については、エスカレーター手すり部分についても、不動産に取り付けられることによって付合してはいるが、もともとは動産であり、引渡し時に動産であった以上、当該動産に欠陥がある場合においては、製造者は製造物責任を免れないこととなります。
民法717条1項に関する最近の裁判例としては、他に、ショッピングセンター内で客が足を滑らせ怪我を負った場合におけるショッピングセンター管理者の責任を一部認めた裁判例として岡山地裁平成25年3月14日判決、東日本大震災におけるマンション給湯設備の損壊による事故についてマンション管理者の責任を認めなかった裁判例として東京地裁平成24年11月26日判決があります。
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