訴外Aは、平成14年8月10日、Y(被告)の経営するクリニックを受診したところ、心気症、腰痛と診断され、それ以降同クリニックでの通院治療を継続していたが、翌年6月9日、自室にて首吊り自殺した。
本件は、Aの母親であるX(原告)がYを相手取り、①薬剤を大量に投与したことに過失がある(不法行為)、②自殺傾向を知り得たのに入院を促したり家族への協力を求めるなどの自殺防止義務を尽くさなかった(債務不履行)、などと主張して、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求をした事案である。
本判決は、①Aの病状等に照らせば、Aに対する投薬は裁量権の逸脱、濫用とは言えない②Yにおいて、Aによる自殺の差し迫った危険性は具体的に予見することはできなかった、としてYの債務不履行責任、不法行為責任のいずれも否定し、Xの請求を棄却した。
医療行為については、専門家たる医師に大幅な裁量が認められ、その判断を尊重するものといえます(これを本判決は、「医師には、原則として、定められた用法・用量にしたがって薬剤を患者に処方することが求められる。しかしながら、通常量では効果が生じない場合や既に薬物依存が形成されており急激な減量による危険が伴う場合には、上記用法に従った処方をすることが適切でない場合もあるため、かかる場合は患者の状況に応じた処方をすることも許されるべきであって、その裁量を逸脱・乱用した時に初めて、義務違反が問われると解するべきである。」と判示しています。)したがって、患者側が医療行為の違法性を立証するのは困難を伴うと言わざるを得ません。
次に、自殺行為に及ぶ可能性が非疾患者に比べて高かったと評価できる場合で、かつ、自殺企図の一般的抽象的可能性を超えた具体的予見可能性があると判断できる場合には、入院設備のある医療機関への受診を促す等、自殺防止措置をとる義務があると解するのが相当であると判示しつつ、本件においては、具体的予見可能性があるとまではいえないと認定しました。ここでも責任を問うには具体的予見可能性まで要求されており、患者側の請求には大きなハードルとなっています。
また、本件においては、患者と家族との関係、家族の治療行為に対する態度等に鑑みれば、病院側が家族への協力を求めなかったとしても、それをもって義務違反ということはできない、とも判示されています。
精神病院へ入通院中の患者が自殺した場合に病院側へ賠償請求をする例は少なくありませんが、通院治療中の自殺の例は多くありません。本件では、患者が通院治療中であり、たとえ一般的抽象的危険性を予見できたとしても、強制的な入院措置がとられるような状況ではなかったことも、結論に影響していると考えられます。
東京地判昭和55年10月3日(うつ病にり患していた患者が退院後に自殺した事案)、大阪地判昭和61年3月12日(急性の精神分裂病患者が帰宅後自殺した事案)があるが、いずれについても、遺族から病院への賠償請求は棄却されています。
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