原告であるXは、平成4年7月3日、町立中学校グランド内の鉄棒で前回りをしようとした際、鉄棒が支柱から外れ落ちたことから、鉄棒を握ったまま落下し、頸部を損傷した。
本件事故つき被告であるY(町)が国家賠償法2条所定の責任を負うことには当事者間に争いなく、平成4年12月、症状が固定したと診断され、YがXに対して後遺障害慰謝料を含む528万円を支払うこと、将来本件事故を直接の原因とする後遺障害が発生し、それが国公立大学病院で証明され、Xに損害が認められるときは、別途協議を行う内容の示談を成立させた。
本件は、事故からおよそ12年経過後にXに両手のしびれが出て徐々に広がり、後遺障害が発生し、平成21年に両手指のしびれ等の症状固定の診断を受けたため、それらの症状が本件事故と因果関係のあるものとして、Yに対して損害賠償を請求した事案である。Yは、本件事故との因果関係のほか、両手のしびれを認識しながら長期間放置しており、過失相殺を主張した。
自覚症状や画像上の所見から認定される傷害につき、一部は本件傷害事故との因果関係を認めるに足りる証拠がないが、本件事故後の手術と関係する症状については、本件事故と相当因果関係を有する傷害であると認め、また、過失相殺については、Xには早期に受診すべき義務はなかったとして、過失相殺の主張を排斥し、Yに対して、1251万円余りの損害の賠償を命じた。
本件においては、Xが主張する後遺症の発生が、事故からおよそ12年も経過した後であること等から、事故と傷害の因果関係が争点となっています。
不法行為上の因果関係については、責任発生原因から結果の生起は単純でないことも多く、まして責任発生原因から長期の時間が経過している場合には因果関係の判断は困難となります。本件の場合、後遺症の発生が自己を原因とするのかは医学的判断も不可欠であり、その立証は簡単ではありません。判例も、「その判定は通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信をもちうるものであることを必要とし、かつそれで足りる」としており(最高裁昭和50年10月24日判決)、医学的に確実であるまでの立証は求められていませんが、かといって、合理的な疑いでは足りないとされています。
本件では頻尿等の排尿障害については相当因果関係は認められないとしつつ、神経症状については相当因果関係が認められるとしました。
次に、因果関係が認められる場合でも、損害の発生につき被害者にも過失がある場合、その過失の割合に応じて損害額の減額が認められています(これを過失相殺と言います)。本件では、Xが後遺障害の発生について認識したのち、通院開始まで長期間放置していたことについて、Yによる過失相殺の主張がなされましたが、裁判所はこれを認めませんでした。Xが医師からそのような助言を受けていた場合であればともかく、単に示談をしていた場合では、速やかに受信する義務は信義則上も認められないことを理由としています。
以上
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