こんにちは。弁護士の稲田です。
本当は去年の12月がブログ更新当番だったのですが、自分がサボ忙しかったために今月当番となりました。
最近は話題性のある裁判が続いているので何か一つ取り上げて解説しようかと思いましたが、
じっくりリサーチしている時間もないし、にわか解説で間違いがあると沽券(こけん)に関わるので、
今回はマイナー気味な近年の判決を2つ紹介してお茶を濁します。
なお、判決文には著作権は観念されないので、ここで紹介しても特に問題ないはずです。
(参考)
著作権法(権利の目的とならない著作物)
第十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。
三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
* * *
高松高等裁判所平成27年9月15日判決(事件番号:平成26年(う)第266号)
(丸亀簡易裁判所平成26年10月27日判決(事件番号:平成25年(ろ)第2・3号)が控訴されて、それを判断した判決です。)
事件の概略
未成年者(A君。当時15歳)にタバコを売った従業員(Bさん)と、コンビニ店舗を経営する会社(C社)が、
未成年者喫煙禁止法第5条及び第6条に違反したとしてとして起訴された事件です。
解説
争われたのは、
① BさんはA君を未成年者とわかって、しかも、A君がこのタバコを吸うんだろうなと思って販売したのかどうか
(わかってなければBさんは無罪です。)
② C社は、従業員であるBさんに対し、未成年者にタバコを売ってはダメよという指導をしっかり行なっていたのかどうか
(しっかり行なっていればC社は無罪です。)
です。
結論としては、丸亀簡易裁判所はBさん有罪、C社無罪としました。
控訴を受けた高松高等裁判所は、Bさんを逆転無罪としました。C社はそのまま。
実はBさん、取調べのときに「A君が未成年者でこのタバコを吸うんだとわかってました。」という自白をしちゃってたんですね。
丸亀簡易裁判所は、この自白が信用できるとしてBさんを有罪としました。
しかし、高松高等裁判所は、A君の体格(167cm)や服装(学校の制服ではなく普段着のジャージ)などの事情や、自白は「未成年者だと知っていたかどうか関係なく処罰される」と思って適当に発言した可能性があると考えたことなどから、自白の信用性は否定しました。
C社については、両裁判所とも、十分な数の従業員を配置していたこと、未成年者への「お酒・たばこ」販売防止確認表といった措置をしっかりとっていたことなどから、過失なしとして無罪としています。
感想
未成年者だとわかってタバコを販売すると、しっかり処罰されますので気を付けましょう、ということですね。
(参考)
未成年者喫煙禁止法
第5条 満20年に至らざる者にその自用に供するものなることを知りて煙草または器具を販売したる者は
50万円の罰金に処す
第6条 法人の代表者又は法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業員がその法人または
人の業務に関し前条の違反行為をなしたるときは行為者を罰するのほか
その法人または人に対し同条の刑を科す
* * *
東京地方裁判所平成27年7月31日判決(平成26年(ワ)第18223号)
事件の概略
A男さんとB子さんは交際し、B子さんがA男さんとの間の子を妊娠しました。ところが、A男さんはB子さんに対し、自分の子どもを産んでも認知しないからねと言って突き放してしまったため、B子さんはしかたなく中絶手術を受けました。そんな彼の理不尽な対応に憤ったB子さんがA男さんに慰謝料請求をした事件です。
解説
争われたのは、
① A男さんとB子さんが婚約をしていたといえるかどうか
② A男さんは婚約を一方的にないがしろにしたといえるかどうか
です。
婚約が成立していたと認められる場合、これを一方的にないがしろにすることは、不法行為責任もしくは契約責任を発生させるので、慰謝料が認められる方向に働きます。
婚約が成立していたかどうかは、①プロポーズ、②結納、③結婚式場の予約、といった事情が重要になってきたりします。
しかし、今回の事件では結納や式場の予約といった事情はありませんでした。
また、当然、B子さんとしてはA男さんが求婚していた・性交渉の際に避妊措置も取っていなかったのだから結婚が前提だったとと主張するのですが、A男さんはこれを頑強に否定し、避妊措置はB子さんに任せていただけで妊娠は容認した覚えはない、と主張しました。
裁判所は、プロポーズがあったことまでは認定しましたが、その後、A男さんとB子さんの間で結婚に向けた具体的な動きがなかったとして、婚約の成立を否定しました。
したがって、当然、婚約を一方的にないがしろにしたということもないという結論となりました(そもそも婚約が認められないのですから。)。
ところが、裁判所は、さらに一歩進んで判断しました。
女性が妊娠した場合、そのパートナーとなった男性には、その女性が中絶を選択することとなったときには、その体や心にかかる負担を軽減し、あるいは一緒に分担する法的な義務があるとし、それを一方的にないがしろにした場合、その男性は中絶した女性に対し慰謝料を支払う責任が生じる、としたのです。
そのため、結論としては、約160万円の慰謝料が認められました。
感想
男性は女性を妊娠させたときにはきちんと責任を取りましょう、ということですね。
なお、A男さん側弁護士については、争点では勝ったのに結論としては負けるという弁護士として一番焦るパターンの負け方をしているので、心中お察しします。